メディア 2025.10.16
東谷商店社長 東谷正隆さん 故繊維業の新しい在り方に挑戦
東谷商店社長 東谷正隆さん 故繊維業の新しい在り方に挑戦
繊研新聞:2025年10月16日(木)更新
大阪・泉佐野市にある東谷商店は、60年以上続く故繊維業者だ。
3代目の東谷正隆さんは、故繊維事業の先を見据えた取り組みとして、
アップサイクルのオリジナルブランド「トニト」の立ち上げや、
古着をリサイクルして糸を作るなど新たな挑戦をしている。
24年に廃業予定だった反毛工場から反毛機を譲り受け、
自社で古着をわたにできるようになった。
これにより、新しい取り組みの可能性がさらに広がりそうだ。
反毛機導入で質も安定
――事業内容は。
主に古着回収やリサイクル事業と、古着の卸販売といったリユース事業です。
古着回収をしている他の企業と比べると量は少ないかもしれませんが、年間300~400トンほど集まります。
僕たちは、一般の人が衣類回収日に出したものを収集業者が取りに行き、集まった古着を買い取ることをなりわいとしてきました。
売り上げは、割合でいうと国内の小売店や個人に古着を販売する国内リユースが一番多いです。
次に海外リユース、ウエス(工業用ぞうきん)の材料として販売するといった順です。
それから、車のエンジンの吸音材や、内装資材の原料として売ったりもしています。
ほかには、古着から出来たフェルトも扱っています。
最近では、自然派コスメ「シロ」の渋谷パルコ店で、防炎加工したオリジナルのフェルトが内装に採用されています。
廃棄衣料のアップサイクルに取り組むカラーループ(京都市)や、
リサイクルボードを作っている企業から依頼を受けて古着を選別することもあり、業務は多岐にわたります。
――古着回収と卸売りの近況は。
古着が増える時期が変化してきています。
例えば、今までなら9月に増えてきていたのが、10月に遅れています。
リサイクルショップが多く出てきて、個人間で売買できるサービスが普及したことに加え、
アパレル企業が独自で衣類回収する事例が増えた影響を受けています。
買い取る時点で、質の良い古着が減っているのも事実としてあります。
卸売りの方は、業者や個人からの問い合わせが増えています。
ですが、入れ替わりも激しく、正直なところ継続的な取引には至りにくいです。
取引量ベースでは、昨年比で微増となっています。
問い合わせがあれば、予算や探している古着の詳細、着数などを聞いて、
なるべく要望に合ったものを選んで販売するようにしています。
――反毛機を導入した。
古着の反毛を昔から依頼していた関西でも数少ない反毛工場が、廃業したのがきっかけです。
このような業種は、後継者不足や高齢化でやめるケースが増えています。
近場で依頼できる工場が他になかったこともあり、
これを機に自分たちでわたまで一貫でしようとの思いで、24年に反毛機を譲ってもらいました。
――導入して手応えは。
反毛をやったことがなかったので、初めのうちは特に大変でした。
反毛機を毎日稼働できるほど古着が集まらなかったり、他の作業があったりで、手が回らないこともありました。
今も分からないことがあれば、譲ってくれた人に逐一教えてもらいながら進めています。
わたの使い道に合わせて、原料となる古着を選ぶなど試行錯誤しながら使っています。
反毛機を持っていれば、わたから質のコントロールができるという利点があります。
反毛は、料理に例えると仕込みのような工程に当たります。
この機械を持っておけば、これからもっといろんなことにチャレンジできると思っています。
自社ブランドを立ち上げ発信
――古着リサイクルの糸作りを始めた経緯は。
既存事業だけをやり続けることに疑問を持つようになり、古着をリサイクルして糸にするなど新しいことを始めました。
全て体当たりでやっています。約4年前の始めたての頃は、糸がどうやってできるかもほとんど知らない状態でした。
もともと、カラーループの「カラーリサイクルネットワーク」(廃棄繊維から付加価値のあるプロダクトを開発する集団)に父と所属していたので、
そこで勉強した部分もあります。糸が出来上がったとしても、織れるかどうかはまた別次元の話でした。
いろんな人に糸のサンプルを見てもらい、意見をもとに試行錯誤しながら進めていきました。
――リサイクル糸の手応えは。
24年5月に、細番手のリサイクルウール100%の糸を作ることができました。
古着からできたウール100%のオリジナル糸「KNOTtheWOOL」(ノットザウール)として、打ち出していきます。
黒やグレー、ベージュなど全7色あります。
ケケン試験認証センターで、基準を満たすと事業者が自ら環境主張をすることができる国際規格「ISO14021」を10月中に取得予定です。
ウール100%の古着だけを集めて、色ごとに選別し、反毛機にかけてわたにして、紡績は泉大津市内のメーカーに依頼しています。
生地まで手掛けたいのですが、今は糸をうまく使ってくれる企業と取り組むのがベストだと思っています。
すでに、瀧定名古屋とは取り組みを始めており、26~27年秋冬の生地で使ってもらえることになりました。
――アップサイクルブランド「トニト」の現況は。
トニトは約4年前に立ち上げました。
既存事業は、基本的に古着をリサイクルや市場に流通するまでの中間工程の仕事なので、
自社から発信できるものが欲しかったのがきっかけです。
リサイクルウールを使ったラグの販売から始まり、今ではフェルトのトートバッグや雑貨、ブランケットなども揃えています。
主に自社ECでの販売で、一部、卸もしています。扱ってもらうことが増え、ブランドとして安定してきた状況です。
――企業との取り組みを広げている。
高島屋の循環型プロジェクト「デパート・デ・ループ」に、スーツの部門が追加されるとのことで24年9月に相談を受けました。
回収したスーツを糸に戻して、製品までやりたいといった内容でした。まずは不用なスーツを使って、サンプルで糸作りをしました。
実際の回収は今年5月に終えており、随時送られてきている状況です。
回収したスーツの生地のウール配合率や色、ウール以外など細かく選別して、反毛機でわたにして糸にする工程までを受け持っています。
――今後の目標は。
新しい故繊維業の在り方を目指していきたい。
川上から川下までつながりながら、これまで以上に新しい取り組みが出来ればと思っています。
回収した古着をできるだけ有効活用することに加え、糸はリサイクルウール100%以外の素材でも作ってみたいです。
ですが、価格面を含めて、ユーザーに届きやすいようにどこまでできるかが大切だと考えています。